日時:2025年1月14日15:00~17:20
会場:竹中工務店大阪本店 4階 401号会議室
出席者35名 現地開催のみ
内容:木造防火法令の改正とこれからの木造建築物
構造設計者のための木造建築の防耐火 ~最新の木造耐火に関する規制緩和~
講師:安井 昇 様(桜設計集団代表・早稲田大学招聘研究員・NPO法人team Timberize理事長)
講演動画・配布資料
1.開催挨拶(JSCA関西技術委員長 吉田 聡様)
・ JSCA関西技術委員会について
2.ご講演(安井 昇先生)
- 最近の容易に消火できなかった大きな火事の共通の特徴は、壁や天井が木質仕上げであったこと。壁や天井は可燃物であり、可燃物がたくさんあると火事は成長して消火が及ばなくなる。また、建築計画では中庭形式などで建物の裏表から消火活動ができなかったことも原因である。
- 3階建て木造建築物の実大火災実験の燃え方の様子、結果とともにそれらを踏まえて改正された法令について解説があった。(以降主な内容を列挙する)・試験体は準耐火建築、イ準耐1時間、燃え代設計、壁天井は木質材料とした。・外装(開口部)が破損するとそこから酸素が供給され、火災が止まらなくなる。→出火しても燃え方を建築側で制御する必要がある。→実験の条件ではRCでもSでも同じなので、内装木質化をすると同じ結果となる。
・破損した開口部から上階へ火炎が上がり延焼が起こった。
・延焼の恐れのある部分は階に応じて3~5mと設定されているが、これは一般の木造住宅が燃えたときのことであり、本実験では輻射熱の影響は30mの範囲まで確認された。
・卯建(うだつ)によって水平方向の延焼を防止する効果が確認できた。しかし、内部の防火戸が火災による圧力で開き防火壁を越して延焼が起こってしまった。
・1時間経つと内部の可燃物がほぼ燃え尽きてしまうため、倒壊しても周辺に大きな影響を与えないと考えられる。これが準耐火の1時間は倒壊に耐え、その後の倒壊は許容することの理由である。
・試験体の在来軸組部は構造用合板が燃え尽きて軸組みのみの架構のみとなったため倒壊した。
・接合部(ドリフトピン現わし仕様)から崩れた様子も確認できた。ドリフトピンは熱が内部に伝わりやすく、接合部耐力も低下する。
・3回目の実大火災実験は天井を石膏ボードにして行った。可燃物が少ないため、火炎が小さく、延焼する時間が長くなることを確認した。
→天井が燃えにくい材料になるだけで燃える速さ、勢いが小さくなる。
・2回目の実大火災実験では壁を石膏ボード貼り、天井は準耐火木梁を現わしにして梁と梁の間を石膏ボードにして行った。また、外装にバルコニーや庇を設けた。
→準耐火梁と石膏ボードの天井でも燃え広がるスピードを遅らせる効果があることを確認できた。今後この結果から、内装制限1/10の緩和につながると考える。
→バルコニーや外周庇(出寸法1.5m)を出すと上階に燃え広がらないことを確認した。
- 落とし込み板壁及びCLT壁の加熱実験について
・杉材の柱120角、30mm落とし込み板(杉板)、仕上げ杉板(45mm)貼りの壁の片側加熱実験を行った。33分加熱後、加熱側は850℃にもなるが反対側は1℃も上がっていない結果となった。
・厚さ150mmのCLTを120分片側加熱しても裏側は100℃まで達しない(燃えない)。
→壁の加熱実験より、加熱側の木材は燃えるが、ゆっくり燃え、遮熱性が非常に高いことから防火壁になり得る。
・木材も加熱すると強度・ヤング係数が低下する傾向がある。
・集成材の場合は接着剤も強度低下がみられる(熱可塑性がある)
→レゾルシノール樹脂にするもしくは断面を上げることが必要である。
・AIJ防耐火委員会にて、火災後に木部材はそのまま使えるのかという検証を行っている。詳細は今後だが、ヤング係数は200℃程度までは低下なしという結果が見られている。
-休憩-
- 防耐火に関する法律とその法律の要求について解説があった。
・火災成長期に関わるのは躯体ではなく仕上げ材であり、燃える内装は煙を出し、避難を妨げてしまう。内装制限は燃えてしまう仕上げを制御し、煙の量を制御する法律といえる。(避難安全)
・煙は1m/秒程度で上昇するため、3階建て以上の建築物には竪穴区画が必要になってくる。2階以下は窓等から飛び降りることができるため、不要とされている。
・火災最盛期は隣室や隣棟へ延焼しないことが必要であり、躯体が燃焼しても壊れず避難する時間は確保する準耐火構造、もしくは倒壊を許容しない耐火構造が求められる。これらは、地震が発生して消防隊がすぐに到着できないことを想定しているため、地震国日本特有で諸外国より厳しい規定となっている。
・2019年6月の法改正より「耐火建築物」が、「耐火建築物 または 同等性能以上の建築物」と緩和されたが、耐火建築物と同等性能以上とするためにかなりの設備が必要で、コストアップの要因になっている。現在、徳島県の「awaもくよん」が同等性能以上の建築物として該当する。
・準耐火構造(ロ準耐1号以外)および耐火構造は避難安全検証法を用いることで、内装制限を緩和できる。その他建築物は倒壊までの時間を担保できない構造のため、避難安全検証法を用いることはできない。火災時にその他建築物はいつまで自立していられるかは構造設計次第といえる。
①耐火時間の改正で90分耐火構造が登場した。25mm強化石膏2枚張り程度で対応可能である。
②部分的な木造化の規定は、耐火構造はすべての構造部が壊れないことを要求してきたが、一部(木造化した部分)が壊れることを許容した。ただし、鉄骨造は火災による熱の影響を考慮してNGのため、実質的にRC造の一部木造化に限られている状況。
③防火みなし別棟(S26別当通達が法令化)
火熱遮断壁等が必要であり、鉄骨造は不可。
④その他いろいろ
- 直近の中大規模木造関連の大臣認定・技術開発事例の紹介があった。
①WALC協会 木質パネルカーテンウォール 30分耐火構造壁
②木住協 小梁あらわし30分耐火構造屋根
③長谷萬 DLT(Dowel Laminated Timber 木ダボ接合積層材)
・ロ準耐1号は煉瓦構造を想定(=壁勝ちの工法)している。そのため木造で設計する際は耐火構造の壁を貫通しないように耐火被覆勝ちにするディテールを採用する必要がある。
・耐火被覆勝ちで設計する方法として、耐火被覆の上からビス止めが挙げられる。ビスは熱橋の影響が小さい。
・金物周りの耐火性能を確認する実験を行われており、(株)カナイよりロ準耐1号用に金物が発売されている。
・火災時の躯体の状況をイメージすることが肝要である。
・倒壊抑制は消防活動支援につながることを考えて構造設計を行ってほしい。
・意匠設計者に防耐火設計を教えるくらいで。
・火災時に注意してほしい構造・箇所として、不静定次数の小さいトラス、張弦梁や合わせ柱、梁、加熱される鉄と木の接合部などがある。部材が燃えたら、加熱されたらどうなるか考えてほしい。
・1年前にできなかったことができている印象を受けた。情報に敏感になる必要がある。
・床と壁の燃え方、天井の凹凸、壁の傾斜などで燃え方に配慮することはあるか。
→溝がついていると表面積が大きくなり不利側であるといえる。
・鉄骨造は床からの高さが4mを超える部材は耐火被覆をしないでよいが、木造も同じか。4mを超えるとやはり火の影響を受けにくいのか。
→鉄骨のように仕様規定になってない。耐火性能検証法ルートCを用いて着火しない、もしくは着火しても燃え止まるなどを確認する必要がある。実際は5.5mほど床から離さないと検証法しても被覆を取ることは困難である印象。体育館は燃えるものが少ないため、耐火検証法を利用することが多い。
・動画を拝見することで法律が腑に落ちた。イ準耐は避難安全検証法を行うことで外せる規定があるか?
→耐火性能検証法は耐火建築物向け、建物が倒れるか倒れないかの検証である。避難安全検証は避難に関しての検証で、排煙、歩行距離の緩和、内装制限を外せるなどメリットがある。木質内装に適用する例が増え始めている。ルートB2という新たな検証法も施行されて、内装を木質化しやすくなった。
次回 2025年4月8日 17:00~
以上(記録:佐々木)