関西の構造技術者が中心になって2000(平成21)年に立ち上げた「大阪府域内陸直下型地震に対する建築設計用地震動および設計法に関する研究会」を、JSCA関西では2015年から大震研委員会として引き継いでいます。

■はじめに
大阪平野の中央には巨大な活断層(上町断層帯)があり、この断層が動いて起こる上町断層帯地震に対して不安が高まっています。これは建築基準法の想定を超える地震動で、法的に要求されるものではありませんが、将来起こるかもしれない巨大地震から建物を守るための備えを、私たちは提案します。
対象とする建物は、超高層建物や免震建物等,特別な計算(動的応答解析)で安全性を確かめる必要がある重要な建物です。

■上町断層とは
上町断層帯は大阪平野を南北に走り、豊中市から岸和田市まで、全長42km(周辺を含むと58㎞)の活断層活断層で、東側が西側に乗り上がる逆断層です。1回のズレ量は上下に約3.0m、平均活動間隔は約8000年と言われ、今後30年間年間の発生確率は2~3%で活断層としては高い部類に入っています。気象庁マグニチュードは7.6となり、兵庫県南部地震の2.8倍におよぶと想定されています。

■大阪府・大阪市の被害予測
大阪府では平成19年に「大阪府自然災害総合防災対策検討委員会」において、上町断層帯地震の被害予測を行っています。ここでは上町断層帯の壊れ方(震源位置や地盤の強さ等の違い)を35ケース想定し、各ケース毎に500mメッシュで地表面の地震動を計算しています。この地震による被害想定は、直下型地震の被害想定としては我が国で最大級となります。

上町断層帯地震の大きさは、建築基準法で定めているよりもかなり大きな地震動となり、一般的な設計の建物では、法で定める限界を大きく超えてしまい、安全が確保されません。

■巨大地震に対する設計方法の提案
大阪府の被害想定に用いられた膨大な数の予想地震動から、統計的・工学的に判断した地震動を作成し、かつ建物の構造設計方法を提案しています。

建築基準法では、地震の大きさと設計目標を2段階に設定しています。上町断層帯地震のように再現期間が長い巨大な直下型地震は、法で定める2段階を超える大きな地震です。このような地震はレベル3と考え、設計目標は「大きな損傷は残るが倒壊することはなく、余震にも耐えて人命を確実に守る。」とします。
  ◻︎レベル1.稀に起こる地震に対して大きな損傷は起こらず、継続使用が可能とする。
  ◻︎レベル2.極めて稀に起こる地震に対して損傷するが修復可能な程度の被害に留める。
  ◻︎レベル3.巨大地震に対して、大きな損傷は残るが倒壊することはなく、余震にも耐えて人命を確実に守る。
   ※時刻歴応答解析で設計した建物の場合

また、予測地震動にも、壊れ方の選択で大きなバラツキがあります。そのため、建物の重要度に応じて大きさを選択できるように、3段階の地震動を市内の各ゾーン毎に定めました。
  ◻︎3A :バラツキの平均程度の大きさで、基準とするレベルです。
     おおよそ、基準法レベルの1.2倍程度です。
  ◻︎3B :基準よりも高い安全性を確保するために、バラツキの70%程度をカバーする大きさです。
     おおよそ、基準法レベルの1.5倍程度です。
  ◻︎3C :特段の高い安全性を求めるために、バラツキの85%程度をカバーする大きさです。
     おおよそ、基準法レベルの1.8倍程度です。

建物の重要度や経済的な問題を総合的に考え,地震動レベルを判断して下さい。私たちは、現段階では3Bレベルの地震動を対象とすることをお勧めいたします。現実的なコスト増で設計目標を達成できる範囲です。

■さいごに
上町断層帯地震に対する備えは、大阪に建つ建物にとって、避けることのできない課題です。
もちろん断層の調査も含めて、まだまだ未解明な部分が多く残っています。しかし、最近の震災を考えてもわかるように、地震は待ってくれません。 いま分かっている範囲で上町断層帯地震を「想定」し、現実的に採用可能な設計法を関西の研究者と構造設計者の知恵を結集して作成しました。私たちは建物個々のケースに応じて、最善の方策を提案できます。大阪の未来のために、是非とも巨大地震に備えて下さい。

■活動内容(報告会に関する記事)
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■報告会 議事録
2017年度 第1回報告会 議事録
2017年度 第2回報告会 議事録
2018年度 第1回報告会 議事録
2019年度第1回報告会議事録

関西地域における告示波を超える長周期地震動に対する検証法